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がんとの共存 

「不惜身命」緒形拳さんの最期 見事ながんとの共存 あの有名人から学ぶ!がん治療
〜夕刊フジ 6月2日(木)16時56分配信より引用しております〜

2000年頃より慢性肝炎を患い、2003年に肝がんを併発した緒形拳さん。しかし、緒形さんは手術や抗がん剤といった積極的治療を受けずにいたようです。

 前回も述べたように、肝臓は「沈黙の臓器」という別名がつくほど、症状が現れにくい臓器。肝がんの初期で症状が出る人は稀であり、たとえ5センチ大の肝臓がんができても、無症状のことがあります。だから肝がんを早期で見つけるためには、慢性肝炎ないし肝硬変と診断されていれば、たとえ無症状の状態であっても、定期的な検診が不可欠なのです。

 ちなみに、慢性肝炎の人では半年に一度、肝硬変ならば3カ月に一度の超音波検診が望ましいとされています。肝臓がんになった人の病歴を調べると、その70%は肝硬変からのがん化、また、25%は慢性肝炎からのがん化というデータもありますから、慢性肝炎の時点から、自覚症状がなくてもしっかり超音波検査と腫瘍マーカーで経過観察すべきでしょう。

 ただし、太り過ぎて脂肪の多い人や肺気腫などを併発している人、肝硬変の状態が悪くて肝臓の萎縮が強い人などは、超音波検査ではがんが見つかりづらいので、要注意です。

 おそらく緒形さんも定期的な検診は欠かさなかったはずです。しかし、がんが発見されたものの、手術や抗がん剤といった積極的な治療は選びませんでした。役者人生を全うすることを第一に考えたのではなかろうかと想像します。

 それならば、最初から検診など受けずに、何も知らずに生きていたほうがいいのではないか? と思う方もいるかもしれません。確かにそういう無頼な生き方もあるかもしれませんが、自分の身体の状況を知って生きるより、知らないで生きていくほうがよほど怖く、勇気のいることではないかもしれません。

 病の状態を知らなければ、残された時間内での人生設計もできません。がんという病は、闘うものというより、付き合うものであると考えます。「おい、共に仲良く生きていこうぜ。俺が死んだら、お前も死んじゃうんだから、あんまり悪さをするなよ」と体に言い聞かせるくらい気持ちに余裕を持って対応する。食道がんで亡くなられた作家の江國滋さんが、「おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」という一句を最期に詠み、同タイトルの本がベストセラーになりましたが、まさにこれこそが、がんへの心構えだと思うのです。

 肝がんは初期にはほとんど症状が出なくても、進行とともに、徐々に症状が現れていきます。お腹に圧迫感を覚えたり、触るとしこりに気づくこともあります。そして、食欲不振、全身倦怠感、体重の減少、微熱に加え、肝機能の低下とともに、腹痛や腹部膨満、腹水、黄疸、赤い発疹を中心に蜘蛛が足を広げたように欠陥が広がるクモ状血管腫という症状も出てきます。

 緒形さんは2007年の秋頃から激しい腰痛に見舞われたそうです。同年12月に精密検査を受けたところ、腰椎圧迫骨折と判明し、セメントで骨を固める手術を受けました。

 肝がんの人が腰椎圧迫骨折を起こした場合、2つの病態が考えられます。ひとつは骨粗しょう症の存在です。意外に知られていないでしょうが、肝臓と骨は密接な関係にあります。肝硬変の人はたいてい骨粗しょう症もあるので、ちょっとした負荷でも圧迫骨折を起こしやすい状態にあります。ですからビタミンDの補給などによる骨折の予防が大切です。

 もうひとつの可能性は、肝がんの腰椎への転移です。肝がんは骨や肺や脳に転移することがあります。ただし骨転移のために脊椎が骨折した場合、それに対する手術は行わないか行えないことが多いので、転移ではなかったのではと想像します。

 しかし、この後も入院をすることはなく、在宅医療で治療を続けたといいます。凄い精神力です。2008年の3月からドラマ『風のガーデン』の撮影が富良野で始まりましたが、このときはすでにがんが全身に転移をしていたという話もあります。そして、北海道での春・夏・秋とクランクアップするまで「共存」していた肝がんが、撮影終了直後にとうとう耐えきれなくなったかのごとく、肝がんの腹腔内破裂を起こしました。

 肝がんの人の最終的な臨床像には主に3つあります。ひとつは肝不全。肝臓が働かなくなりアンモニアを解毒できなくなり貯まったアンモニアが脳を冒す病態を肝性脳症と言います。興奮や手が震える羽ばたき振戦、そして軽度から高度の意識障害という症状を呈します。

 ふたつめは食道静脈瘤の破裂や胃潰瘍からの出血です。肝硬変の人の消化管粘膜は血流が悪いため非常に出血しやすい状態にあります。これらの症状は肝がんというより肝硬変の最終症状とも言えます。

 そして3つめが肝がんの腹腔内破裂です。肝がんが肝臓の表面に存在した場合、がんの表面の血管が破たんしてお腹の中に大出血を起こすことがあります。そもそもがんとは血管の塊です。その血管が破裂するとあっという間にお腹が膨らむとともにショック状態に陥ります。

 こうなるともはや医療もお手上げ。急いで輸血をしたところでいわゆる「急変」と言われる状態に陥ることがあります。私自身も肝臓専門病院で働いていた時に肝がんの腹腔内破裂を何例か経験しました。しかし在宅医療の現場ではまだ一人も見たことがありません。もしかしたら、在宅医療ではがんの終末期に過剰な輸液を行わず枯れた状態で推移するので、腫瘍血管も破たんしにくいのかなあと想像しています。

 同ドラマの脚本家である倉本聡氏は、あるインタビューでこんなふうに緒形さんのことを振り返っていました。

 「(ドラマ撮影開始時に)彼、体調が悪かったもんですから、ぼくも心配しました。最初は普通の食事もできないもんだから、ペンションを借りて付き人の女の人が食事を作っていたんです。だけど拳さんが『猫をつれてきたいから』と言い出しましてね、一軒家を借りました。だから、ぼくの農園のカボチャやホウレンソウを朝、もいで送っていました。(中略)相当、悪かったんだと思います。昔から、親しかったんで無理な状態でお願いしてしまいました。途中で何かあったら、と…。(しばらく沈黙)本当に良くやってくれました。クランクアップでは『終わったぁー』って何とも言えない笑顔を見せていたけれど、疲れ果てていましたね。その数日後に逝ってしまうなんて。通夜で奥さんに『申し訳ないことをしました』と言ったら、『この仕事に賭けていたので…』と。作品の仕上がりも見ないで逝っちゃったことが、かわいそうでなりません。(ドラマの中で)死に関するセリフがあるんです。『生きているものの死は避けられない』と言うのがあるんです。……密葬で緒形さんの書が張られていました。『不惜身命』。その通り、自分の体をいとわずやってくれた。(『風のガーデン』は)拳さんの霊に捧げる作品です」


「不惜身命」とは、もともと法華経が出典の仏教用語です。その意味は、「死をもいとわない決意」。お見事な最期、としか言いようがありません。緒形拳さんのご冥福をお祈り申し上げます。

■長尾和宏(ながお・かずひろ) 長尾クリニック院長。1958年香川県出身。1984年に東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。阪神大震災をきっかけに、兵庫県尼崎市で長尾クリニック開業。現在クリニックでは計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に取り組んでいる。趣味はゴルフと音楽。著書は「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)、「『平穏死』10の条件」(同)、「抗がん剤10の『やめどき』」(同)。
〜引用終わり〜

がんの治療と付き合い方は人それぞれ。
色々なことを勉強し
お医者様と御相談して方針を決めてくださいね。

〜腸内環境は大切です。〜